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ノワパラ短編
​「イサナとバレンタイン」

「ヒカゲってバレンタインにチョコ貰ったことってあるのですか」

 色とりどりの紙袋がテーブルの上に置かれているのを見て、イサナは今日がバレンタインだったことを思い出す。甘いものに興味がないので忘れていた。

 この山はどう見てもソファーで座ってチョコを食べているヒカゲが自分で買ったものだ。

「失礼だな。どうしてそう思ったのさ」

「友達がいない性格の女顔で童顔の長髪赤リボンに黒づくめだからですよ。女子から可愛いとは思われても恋愛対象には見られなさそうじゃないですか。そして友達認識もされそうにないですし」

「さらに失礼だ」

 イサナとは違い甘党なヒカゲは、バレンタインの催事売り場を大歓迎している。

「私の方がチョコ貰ってそうじゃないですか」

「高身長め。そうだ、僕はイサナからチョコ貰ってないんだけど?」

「友達じゃないのであげませんよ。友チョコが欲しいなら那由多さんから貰ってくださいよ」

「那由多からのチョコとか受け取るわけないだろ。嫌だよ」

 洋菓子は専門ではないとはいえ、料理人である那由多の手作りは美味しいと評判だ。しかし、食材に人間の部位を隠し味にしているモノなど、ヒカゲは口にしたくない。

「イサナこそ那由多にバレンタインあげたら? あいつ意外と律儀だから三倍にしてホワイトデー返してくれるよ」

「ヒカゲ。知っていますか?」

「何を?」

​「ゴミ袋って有料なんですよ」
 

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