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逆引き境界短編
​「初詣」

「折亞! 初詣と初売りに行こう!」

「え、嫌だけど」

 緤が大晦日に電話をしてきた。新年のお誘いだったので普通に断った。

「嘘だろ。行こうぜー」

「人ごみにわざわざ突撃するつもりもないよ。部屋で元気に引きこもりするし。終夜を誘ったら?」

「終夜はバイトだって断られた」

「ああ……初打ちだもんね」

 終夜は人がいいから、年末年始やお盆など人が不足しがちかつ人手が必要な時にはシフトを詰める傾向がある。

 まあ、その分、いざというときは融通を聞かせてもらえるんだけどね。

「だから、折亞。一緒に行こうぜ! 今ならもれなくナギもついてくる」

「え、嘘。ナギは部屋に籠って映画でも見るタイプでしょ!? どんな脅迫をしたの」

「脅迫してねーし。しつこく誘ったら、諦めて初詣行ったほうがめんどくさくないと判断してついてきてくれることになったんだよ」

「うわー。ってかだったら私が行かなくてもいいじゃん」

「駄目。ナギが、緤と二人はデートみたいでいやだから、せめて他誘ってね。じゃないと行かないからって条件だされたんだよ。それに……新年だぞ? 皆と遊びたいじゃんか」

「もう、わかったよ」

 これだけ熱心に誘ってくれるのに断り続けるのも悪いので、私も諦めることにした。

 一人なら絶対に行かない初詣も初売りも、三人なら億劫じゃなくて楽しみになる。

 引きこもりも嫌いじゃないけど、友達と遊ぶのもそれ以上に嫌いじゃないので。

 

 そうして初詣の日。待ち合わせの場所には五分前に到着するナギが、寒そうに腕をこすりながら待っていた。私と緤が合流して新年の挨拶を済ませてから、緤が元気よく「さあ行こう!」とするのを、ナギが露骨に顔を歪めた。

「え、諒は?」

「あいつはバイトだけど」

「は? 嘘でしょ!?」

 ナギは初めて知ったとばかりに愕然としていた。教えていなかったんだ。

 まぁ、それはそうか。ナギは、緤に対して女装をしてくるなという条件をつけなかった。それはすなわち、終夜も来ると思っていたということである。

 私と緤とナギという組み合わせは必然、外見上は女二人、男一人になる。

 緤は普段以上に気合を入れて、着飾って和ゴスを決めている。

 大学にいるときとかは、見た目男一人を気にしないのに、偶にナギはそういうことを気にする。その寝癖抜こうか。

「諒がいないとか聞いてない」

「言ってないけど、終夜が条件とも言われてねーからな。俺はちゃんとお前と二人じゃない条件を満たした。ほら行くぞ。腕組んでやろうか?」

「絶対御免だよ。だったら折亞と僕は腕を組む」

「どうしてそうなるの。なら私は緤と腕を組むし」

 そういうと、緤が嬉しそうに腕を組んできた。ふむ。人の温もりは服越しでも暖かい野で悪くないかも。とか思っているとナギが

「え、嘘でしょ」

​ といった。

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