ZeroMelody
逆引き境界短編
「七夕に願いを。」
斉賀実の面倒をサクラから任された。
任されても困る。「よろしくね! 緤!」って元気よく頼まないでほしい。
醤油がないからって買い物に行かないでくれ。
仕方ないので諦めて斉賀を眺めることにした。目を離した隙に死んでいましたじゃシャレにならないし、俺は自殺防止初心者だ。
さて、当の自殺志願者である斉賀は、何故か天井が無駄に高いリビングにある立派な笹に飾るための短冊を一生懸命書いていた。
斉賀の願いはなんだ? 身長が伸びますようにかな。無理だろ成人男性。いや、死ねますようにって書くのかな。
俺なら七夕に何を寝合うかな。身長が縮みますようにか? 男としては低めだが、女装するには百六十五㎝は案外でかい。
願い事を書き終えた斉賀は、笹の一番見栄えがする場所に短冊を飾った。
『身長が伸びますように。 新堂円』
――いやいやいや、待て待て待て!? 何ナチュラルに円の名前を使ってんの!? 何一仕事終えましたみたいなどや顔してんの!?
「実ちゃんは馬鹿なの!?」
あ、声に出ちゃった。斉賀は胸を張って答えた。
「円ってさぁ、絶対、ぜーったい。短冊に願い事書かないタイプじゃん? だから代わりに願っておいたんだ。褒めるべきだよね」
「絶対怒られるやつだ。円は身長気にしてますって口にしたくないやつだろ」
「うん。だから怒った円が僕を殺してくれれば万々歳だよね」
嫌がらせも兼ねた自殺方法だったとは画期的だなぁコノヤロウ!
「なので、円をおうちに招待しました」
「醤油がなかったのは実ちゃんのせいか!」
良心サクラがいなければ、やりたい放題だもんな! お中元に醤油送るか。とりあえず俺は今すぐ帰る。俺は自分の命が可愛いんだ。
とか思っていたら玄関のドアが開く音が聞こえた。
果たして――鬼が出るかサクラが帰宅するか。
サクラでありますように、と俺は願い事を笹につるした。