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アマービリタ短編
「​和歌と色葉の正月」

 年末年始なので、色葉は仕方なく実家に帰省していた。本当は藍色の家でみずと年越しそばを食べながら、紅白を見たかったが、真面目な猫被りを外せない色葉は、実家ですき焼きを食べた。

 佐京家の元旦は自宅でのんびり過ごすのが習慣なので、リビングのソファーで正月番組を眺めていると、スマートフォンの受信音が鳴った。差出人は藍色だ。

 嫌な予感がしたが、画像が気になったので開くと、思わず舌打ちをした。「どうしたの?」と母親に尋ねられて、色葉は慌てて笑顔を取り繕い何でもないと誤魔化した。

 そそくさと部屋に戻ると、何故か弟の和歌も後ろをてくてくとついてきた。扉を閉めて振り返ると、気味の悪い笑顔を浮かべている。

「なんでお前は楽しそうなわけ? 兄の部屋には立ち寄りたくないんじゃなかったの?」

「お兄ちゃんがどんなメールを貰ったか気になったんだよ。チェーンメール?」

「発想古くない? あれまだ流行ってんの?」

「お兄ちゃんが凄く嫌な顔をしていたから、どんな素敵な内容だったのかなって心が躍って」

「兄の機嫌が悪くなったのを喜ぶ弟がどこにいるんだよ」

「ここに。早く教えて、教えて」

 色葉はため息をついてから、和歌へ写真を見せた。

 和装して初詣を楽しんでいるみずと藍色の写真だ。ご丁寧に藍色は髪の毛のアレンジで編み込んでいる。みずは美味しそうに餅を食べて、藍色は昼間からビールを飲んでいる一コマが切り取られた写真からは楽しさがにじみ出ていて、なおのこと、そこに加わりたかった羨望がにじみ出る。藍色に丑の刻参りをしたい。ネットで検索したらやりかたのっているかな? と思う程度には恨んでいる。

「みずゆきさんと藍色さんだー楽しそー。お兄ちゃん残念だったね! オレは今年一年いい日々が過ごせそうだよ!」

「人の不幸を喜ぶな。俺は友達と初詣も年越しもしたかったんだから。ああいや……藍色は友達じゃないからいらないけど……藍色は邪魔だけど……」

「お兄ちゃん聞いて! オレね! 明日ののかと初詣するんだ。お兄ちゃんとは違ってね」

「話の流れを切って自慢しないでくれる?」

「お兄ちゃんが友達と行けなかった初詣に、ののかと行けるなんて嬉しすぎるよね」

「繰り返すな。そして幸せな顔をしていうな。碌な大人にならないぞ」

「仕方ないよ。お兄ちゃんの弟だもの」

 小首を傾げて弟はあざとく笑った。

 色葉はどう仕返しをするのが最適かを考える。可愛くない弟に優しい兄はいない。

「母さん。明日、家族皆で初詣に行こう」

 

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